住宅の耐震強度には、建築基準法で規定されている耐震基準の他に「地震地域係数」が関係しています。
地震に関する記事などを見て、この係数について気になった方もいるのではないでしょうか。
地震地域係数は、建物強度を決定づける重要な数値なのですが、実はこの基準には問題があるとされています。
この記事では、地震地域係数の数値に対する問題点を踏まえ、安全な建物をどのように選べばよいのか解説していきますので、家の購入を考えている方、自宅の耐震性に不安がある方は必見です。
地震地域係数とは?
地震地域係数とは、国土交通省が過去の地震記録などをもとに地域ごとに定めた値のことです。
建築基準法施行令第88条第1項には、「その地方における過去の地震の記録に基づく震害の程度及び地震活動の状況その他地震の性状に応じて1.0から0.7までの範囲内において国土交通大臣が定める数値」と規定されています。
地震が発生しやすい地域に1.0という係数を与え、地震が発生しにくいと思われる地域を0.9、0.8、あるいは0.7という値で区分し、建築設計の際に地震力(地震時に建物に加わる水平の力)の計算に組み込みます。地震地域係数は、建物の強度を決定づける重要な数字なのです。
(ただし、地震地域係数は鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物、3階以上の木造建築物で義務付けられるもので、2階以下の木造住宅は対象外である点に注意しましょう。)
地震地域係数ごとに、主な地域を見てみましょう。
・1.0・・・・・東京都、埼玉県、愛知県、静岡県、大阪府、京都府、他
・0.9・・・・・秋田県、山形県、新潟県、岡山県、広島県、愛媛県、高知県、宮崎県、他
・0.8・・・・・山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県の一部、他
・0.7・・・・・沖縄県
関東圏・中部圏・関西圏のほとんどが「1.0」と指定されているのに対し、東北、山陽・山陰、四国、
九州の一部で、係数が低く設定されていることがわかります。
どのようにしてできたの?
地震地域係数は、1952年に初めて定義されました。
係数設定の根拠となったのは、当時の地震学者である河角廣(かわすみ ひろし)博士が発表した
「わが國における地震危險度の分布」という論文でした。
この論文内に添付した「河角マップ」が、それまでに発生した地震の震源やエネルギー、今後の地震予測を日本地図に書き記したものとして、その後使用されることになったのです。
地震地域係数の問題点とは?
地震地域係数の値には問題点があるといわれています。
当時の地震学では、震度に関する詳しい情報を把握できたのは3大都市圏の周辺地域に限られており、その範囲には情報に基づいた数値が当てはめられていました。しかし、3大都市圏以外の地域には確かな情報がないままに、3大都市圏より低い数値を用いてよいという判断が下されてしまったのです。
さらに、この地震地域係数には、1952年版、1980年版、2007年版があり、その都度改正されてはいるのですが、内容自体に大きな変更がないことも問題視されています。
1981年に定められた現行の新耐震基準が目指すのは、「震度6強から震度7程度の地震が来ても、建物が倒壊しないこと」です。
この基準に、現行の地震地域係数を当てはめると、係数が1.0の地域では、この強度を満たす建物になるのですが、地震地域係数が「0.8」の場合に算出される数値は、「弱い震度6強の地震に耐えうる」程度にまで引き下がってしまいます。
つまり、3大都市圏以外には、今も信頼できる数値が当てはめられておらず、地域によっては必要とされる耐震基準を満たさない建物がつくられている可能性があるのです。
2016年に起こった熊本地震や鳥取地震のように、地震地域係数0.9や0.8と指定されている場所でも、近年地震が発生していることを考えると、この係数自体に疑問を感じる声も多いのです。
安全な住宅を選ぶために
地震地域係数で交わされる議論
地震地域係数に関する新聞報道や専門家の意見は、下記のように大きく二つに分かれます。
- 地震地域係数を最新の知見を反映したより精緻なものへと見直すべき
- 地震地域係数そのものを否定し、全国一律に建築物の耐震性を確保すべき
静岡県では、1979年に「静岡県建築構造設計指針」を定め、建物の地震力を計算する際に、地震地域係数を建築基準法で規定された「1.0」からさらに高い「1.2」を基準にするよう指導しています。
このように、国の基準よりも高い基準を定めることで、議論にも及ばないほど高い安全性が確保されている事例もあります。
安全な住宅に住もう!
日本のどの地域でも、震度7の地震が発生する可能性があると考えると、地震地域係数に左右されず、
頑丈な建物に住むことが一番安心できる選択肢ではないでしょうか。
本記事で述べたように、現在日本で施行されている地震地域係数には、不明確な点があります。
もしものときに安全を確保できるように、安全な建物を自ら選んでいく意識が必要でしょう。
もし、自宅の耐震性に不安があれば、耐震診断を受けてみることもひとつの選択です。
自分の家と大切な家族を守れるように、安心安全な建物に住みましょう!