屋根の基礎知識

1.屋根とは (屋根の役割)
2.屋根の形状による分類
2-1.日本で一般的に使われる屋根の形状とは
2-2.屋根の形状の選び方
3.屋根材による分類
4.屋根の構造 その1-屋根の構造
4-1.屋根はどのようにして雨の侵入を防いでいるのか
4-2.一般的な屋根に使用される基本部材
4-3.屋根材の種類別の構造
5.屋根の構造 その2-小屋組
5-1.和小屋と洋小屋の違い
5-2.小屋組の個々の部材の名称
6.屋根のライフサイクル

1、屋根とは (屋根の役割)

屋根とは、建築物の上部を覆うもののことです。
住宅の屋根は、雨や露、雪、日射、熱暑寒冷から屋内を守り、快適な住環境を保つと同時に、外壁や基礎部分など建築の重要な構造部分を保護する役割を果たします。
屋根は、形状や素材により機能性・耐久性が異なります。また、色やデザインも住宅の印象を左右する要素となるので、選ぶ際は十分に吟味することが大切です。

2.屋根の形状による分類

2-1.日本で一般的に使われる屋根の形状とは

上図のように、屋根にはさまざまな形状があります。
日本の伝統的な屋根としては、中世以降格式のある建築に採用された入母屋屋根、西日本で広まった切妻屋根、東日本で広まった寄棟屋根、主に神社建築に用いられた方形屋根などがあり、現在もなお古い建築物などで見られます。
中でも、構造がシンプルな切妻屋根は、現在でも採用されるポピュラーな形状です。日本瓦だけではなく、スレートやトタンなどの素材にも合うので、さまざまな建物に応用できるのです。その他、屋根が4方向に下がりどの方位でも対応できる寄棟屋根、見た目がシャープな印象の片流れ屋根なども、近年よく採用される屋根形状です。

2-2.屋根の形状の選び方

屋根の形状を選ぶ際は、見栄えだけでなく施工やメンテナンスにかかる費用、方角、地域特性など、さまざまな点に注目する必要があります。主なポイントを以下で解説していきます。

施工やメンテナンス費用、雨漏りの危険性
屋根は、構造が複雑な形状ほど施工費が高くなり、メンテナンスも難しくなります。
また、構造が複雑になればなるほど、雨仕舞いをきちんとしなければ雨漏りを引き起こす可能性が大きくなります。
雨仕舞いとは防水及び雨水を速やかに排水するための構造を指します。雨の排水路を作ったり、壁や他の屋根との継ぎ目に雨が入り込まないようにしたり、といった工事を指します。
はかま越屋根、招き屋根、バタフライ屋根など、継ぎ目の多い屋根や屋根の継ぎ目が低くなっている部分がある屋根は雨漏りの危険性があるので、より丁寧な施工が求められます。そのため施工の手間が増えコストが上がります。
軒の深さ
屋根の軒は夏の厳しい日射を遮り、冬の日光を室内まで届ける重要な役割を果たします。また外壁に大量の風雨が直接降り注ぐことを防ぐ機能もあります。
軒は、四季のある日本の風土に合致した住宅機能の1つといえるのです。
軒の深さは、バルコニーや庭、エントランスとの関係性の中で決定していきます。
軒が深い住宅は高級感があるといわれますが、近年は、スタイリッシュに見える軒の浅い屋根が好まれることもあります。ただし、軒が浅い住宅は風雨を防ぐ機能が弱いので、軒先と外壁の接合部から雨漏りを引き起こすリスクが高い点に注意が必要です。
屋根勾配
屋根の勾配(傾斜角)も屋根の機能や印象を左右する重要なポイントです。
勾配が急だと、住宅の高さが高くなる、または軒が低くなりますし、設計上居室空間が取りづらくなります。反対に勾配を緩くしすぎると、雨水がうまく流れにくくなります。屋根には適切な勾配が必要なのです。
地域特性
適切な屋根形状は、地域特性によっても変わってきます。

・冬場に雪が降り積もる豪雪地帯
降り積もった雪が自然に落ちるのが望ましいです。このため切妻屋根や片流れ屋根のようにできるだけシンプルな形状で、大きな勾配をつけた屋根が採用されることが多いです。。しかし、家の周囲に雪を落とすスペースがないような場合は、屋根の上から雪が落ちないような形状を採用するケースもあります。バタフライ形屋根、陸屋根といった形状を用いかつ雪の重量に耐えるように設計します。

・夏の暑さが激しい地域
最上階の暑さを緩和するため大きな勾配の屋根を採用することもあります。・海沿いの住宅や台風が頻繁に通過する地域海風の抵抗を最小限にとどめる勾配の緩い屋根が望ましいです。特に沖縄では傾斜がほぼゼロに近い切り妻屋根や、陸屋根がよく採用されています。

その他のポイント
近年のエコ志向から太陽光パネルを設置する住宅が増えたことにより、傾斜を南側に向けた片流れ屋根が、比較的よく採用されるようになりました。
また、屋根裏スペースが生まれる、屋根からの採光の役割を果たす、風が通りやすいなどの理由から、越屋根や招き屋根などの個性的な形状も近年よく選ばれるようになってきています。

3.屋根材による分類

屋根材には、日本に古くから伝わる「日本瓦」や「銅板」、近年よく採用される「スレート」「ガルバリウム鋼板」など、さまざまな種類があります。
デザイン性、耐久性、メンテナンスのしやすさなど、それぞれの特徴をよく理解し、素材を選択しましょう。

日本瓦

日本に古くから伝わる屋根材です。日本国内の粘土を平らに乾燥させ、1,000~1,250℃の高温で焼き上げてつくります。
日本瓦は耐久性に優れ、強度も高く、耐用年数は50~100年と長いのがメリットです。
また、日本家屋独特の重厚感は日本瓦によってもたらされるといってもいいでしょう。
しかし一方で、非常に重量があるため、地震の際に被害を受けやすいというデメリットがあります。
日本瓦は重いため揺れが大きくなり、脆弱な家屋の場合は倒壊の危険が高まります。これを防ぐため、日本瓦は屋根に固定せず並べて敷き詰めることが多いです。固定しないので、大きな地震の時は瓦が地面に落ちることで家へのダメージを減らすという考え方です。しかし、やはり瓦が落ちてしまうと、当然のことながら葺きなおしが発生してしまうというデメリットがあります。

日本瓦には、表面に釉薬(うわぐすり)を塗って焼き上げた「陶器瓦」と、釉薬を塗らずに焼き上げたあと、さらに蒸し焼きにする「いぶし瓦」があります。
日本瓦の形状には、曲面のついた「J形・和形」、平らな面上の「F形・平形」、S字に波打った「S形・スパニッシュ瓦」などがあります。

セメント瓦
セメントと砂を混ぜ合わせて作る瓦です。立体感のあるデザインで、洋風住宅の屋根材としても向いています。日本瓦と比較すると安価でカラーバリエーションも豊富なため、使いやすい素材であるといえます。しかし、割れやすくメンテナンス費用が高くついてしまうこと、耐用年数が20~30年程度と短いこと、アスベストの危険性があることなどから、近年はあまり採用されなくなりました。
スレート
近年、新築物件に最もよく利用されている屋根材です。日本瓦に比べて軽量で、デザイン性が高いことが特徴です。
スレートには、粘板岩を薄く板状にした「天然スレート」と、セメントと繊維を混ぜ合わせてつくった「化粧スレート」がありますが、天然スレートは高額なためほとんど普及していません。化粧スレートは安価で施工しやすいためよく採用されますが、劣化による色あせが目立つことから、20~25年ごとのメンテナンスが必要となります。
ガルバリウム鋼板
アルミニウム55%、亜鉛43.4%、シリコン1.6%でつくられた鋼板です。スレートと同じく、軽量でデザイン性に優れていることが特徴です。
安価なものから高価なものまでありますが、安価なものは断熱性・防音性が低いので注意が必要です。耐久年数は30~50年程です。
トタン
亜鉛でめっきした薄い鋼板です。安価で、継ぎ目がなく、雨漏りの心配が少ないのがメリットです。しかし、耐久性に欠け、見た目が安っぽいことがデメリットとして挙げられます。トタンの耐用年数は10~15年です。錆が出てきたら、再塗装を施しましょう。
アスファルトシングル
グラスファイバーというガラス繊維の基板にアスファルトをコーティングし、上から砂粒などを敷き詰めたカナダ発祥の屋根材です。軽量で加工し易く、曲面のある屋根にも施工でき、さらに防水性・防火性に優れていることも特徴です。一方で、耐火性に劣る点がデメリットとして挙げられます。アスファルトシングルの耐用年数は30年程度です。
銅板
銅板はその名の通り銅で作られた屋根材です。日本の風土や気候に適した素材として、古くから屋根に採用されてきました。柔らかく加工がしやすいうえに、軽量で、メンテナンスせずに60年以上ももつ優れものですが、価格が高価でへこみやすいという欠点もあります。銅板屋根は、神社や仏閣に使用されることが多いです。

4.屋根の構造 その1-屋根の構造

4-1.屋根はどのようにして雨の侵入を防いでいるのか

屋根を構成する部材には、瓦やスレートなど表面を覆う屋根材だけではなく、防水シートや下地材、屋根材を支える部材など、さまざまなものがあります。
屋根は、これらの構造全体で、雨や露、雪、日射、熱暑寒冷から住宅を守っているのです。
以下に、屋根を構成する代表的な部材について解説していきます。

一般的な屋根に使用される基本部材

垂木(たるき)
屋根の棟から軒に向かい、傾斜をつけて設置する棒状の部材です。約45cm間隔で配置し、上に敷く屋根材を支えます。
野地板(のじいた)
垂木の上に設置する屋根の下地材です。野地板には、厚さ9~15mm程度の構造用合板やパーチクルボード(木片を接着剤と混ぜて圧着したもの)、バラ板(幅の狭い板材)などを使用します。
ルーフィング
野地板の上に敷く防水シートです。表面の屋根材で防ぎきれなかった雨水は、ルーフィングを伝い軒先まで流れていきます。ルーフィングは、敷き方ひとつで雨漏りの有無が決定すると言ってよいほど重要な部材なのです。
現在もっとも普及しているのは、シートにアスファルトをしみ込ませた「アスファルトルーフィング」です。

屋根材の種類別の構造

瓦やスレートなど、屋根材によって使用する部材は異なります。以下に、代表的な屋根構造について説明していきます。

〈瓦屋根〉

瓦屋根は、垂木、野地板、ルーフィングを設置したあとに、瓦をひっかけて固定するための「桟木(さんぎ)」を設置し、その上に「瓦」を葺く構造です。
瓦には、桟木に固定する「桟瓦(さんがわら)」や、軒先に設置する「軒先瓦」、端に設置する「けらば瓦」、上部に設置する「のし瓦」「鬼瓦」「がんぶり瓦」などがあり、それぞれ場所によって使い分けがなされています。

桟木(さんぎ)
瓦をひっかけて固定するために設置する木材です。瓦の縦幅に合わせて、ルーフィング材の上に固定していきます。
桟瓦(さんがわら)
桟木に固定して設置する瓦です。断面が波形で、一隅もしくは二隅に切り込みがあります。
軒先瓦(のきさきがわら)
軒先部分に用いられる瓦です。雨がスムーズに流れるように「垂れ」が付いているのが特徴です。
広小舞(ひろこまい)/dt>

軒先の先端に設置する板のことです。広小舞の上に軒先瓦が載ります。
けらば
屋根の一番端で、雨樋が設置されていない部分のことをいいます。
けらば瓦
けらば部分に用いられる瓦のことです。軒先瓦と同じく、雨水を流す「垂れ」が付いています。
のし瓦
屋根の棟のすぐ下に積む平らな瓦のことです。棟に降った雨水を屋根面に流す役割を果たします。
がんぶり瓦
がんぶり瓦の一番端に設置する瓦です。奈良時代以降に鬼面をかたどったものが多く用いられたので、「鬼瓦」という名前が付きました。
鬼瓦
一般的には「棟瓦(むながわら)」と呼ばれ、屋根の最も高い部位置に設置される瓦です。
巴瓦(ともえがわら)
「軒丸瓦(のきまるがわら)」ともいいます。屋根の一番端っこにあり、けらば瓦の上部に設置されます。先端に巴紋をつけたことから名づけられました。

〈スレート屋根〉

スレート屋根は、垂木、野地板、ルーフィングを設置したあとに、スレートを釘で野地板に打ち付け、最後に「棟包み板」をビスで固定する構造です。

棟包み板
屋根の棟部分を覆う金属板のことです。錆びにくいステンレス製のビスで固定することで、屋根葺き材全体を押さえると共に、雨風の浸入を防ぎます。
けらば水切り
屋根のけらば部分に取り付ける金属板のことです。屋根の側面から雨水が垂れるのを防ぎます。

〈トタン屋根〉

トタン屋根は、垂木、野地板、ルーフィングを設置したあとに、葺き板を固定する「心木(しんぎ)」と、水切りの役割を果たす「唐草」を設置し、葺き板を取り付ける構造です。さらに、「瓦棒(かわらぼう)」で心木を、棟包み板で屋根の棟部分を覆っていきます。

心木(しんぎ)
ルーフィングの上に、棟から軒先に向けて斜め方向に均等に設置する木材のことです。心木には、断面が30mm×40mm程度の木材を使用します。心木に葺き板を固定することで、トタン屋根が作られていきます。
唐草
軒先の先端に設置し、水切りの役割を果たす部材です。
瓦棒(かわらぼう)
心木の上に被せるコの字をした金属板のことです。雨仕舞が施されているため、心木と拭き板の接合部から雨水が浸入するのを防ぎます。

小屋組(屋根の骨組み)の構造

1 和小屋と洋小屋の違い

屋根を構成する骨組みのことを「小屋組」と言います。小屋組には、主に切妻屋根や寄棟屋根など梁間の小さい建物に用いられる「和小屋」と、梁間の大きい建物にまで対応できる「洋小屋」の2種類があります。

和小屋は、小屋梁に小屋束を載せ、その上に棟木と母屋を設置し、垂木を取り付ける形状をいいます。縦方向と横方向を基準に組み立てられるので、屋根勾配を自由に調整することができ、組み立ても比較的容易にできることが特徴です。

日本建築の優美な屋根形状は、和小屋を採用した結果生み出されたものです。

一方洋小屋は、比較的細い部材でトラス(三角形)を組んでつくられる形状をいいます。強固な構造を持つのが特徴で、木材のみならず鉄骨でも組み立てが可能なため、軽量で大スパンの建物もつくれます。

2 小屋組の個々の部材の名称


a.陸梁(ろくばり) b.吊り束 c.方杖 d.合掌 e.母屋 f.軒桁 g.真束 h.棟木 i.垂木(たるき)


a.小屋梁 b.真束 c.小屋束 d.貫 e.棟木 f.垂木(たるき) g.母屋 h.軒桁

4、屋根のライフサイクル

住宅の屋根は、常に雨風や直射日光に晒されているため、徐々に経年劣化していきます。屋根を丈夫に保つためには、定期的にメンテナンスや修理を行うことが重要なのです。
屋根のメンテナンス時期や修理方法は、屋根材によって異なります。例えば、トタンやスレート、セメント瓦は、新調してから10~20年で再塗装が必要になります。また、スレートや瓦など割れやずれが生じやすい屋根材は、不具合がないか定期的に確認します。
屋根の破損が激しい場合は、全体の屋根材を新しくする必要があります。方法としては、既存屋根の上から新しい屋根材を被せる「カバー工法」や、既存の屋根を取り除き新しい屋根材を設置する「葺き替え」などが選択でき、屋根材によって適不適があります。

住宅の屋根材を選択する際には、必要となるメンテナンスや修理方法、生活していくうえで考えられる不具合など、屋根リフォームの基礎知識についてもあらかじめ知っておくことが大切なのです。

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